函館本線(その2)・長万部→小樽間(山線)の風景

北海道の鉄道旅の記憶と記録を残しています。函館本線の2回目は長万部→小樽間のいわゆる「山線」の風景です。

長万部駅から小樽行の普通列車で二股駅へ

新型気動車は、雪山に挑む登山者のように、吹雪の中を西北の山脈に向かって一直線に突き進んでいる。人の気配が消えていき、辺りは真っ白の落葉松と、雪の間から首を出す熊笹だけになった。

八分間走り続けて最初の駅の二股に着く。貨車に窓とドアを取り付けて駅舎に転用されている。駅前には雪に埋もれた数軒の民家が見えるが、人の姿はなく、物音一つしない。

件の道内二人組のうち一人から、ここは温泉あるんだよなあ、という声が聞こえた。「ありゃ料金が高すぎる、経営者が変わって悪くなったんでしょ」ともう片方。二股駅の奥地にある温泉地のことらしい。かつて消費者金融会社が買収したと聞いたことがある。

こんな山奥の温泉でも買い手があるということは、二股は案外すごい場所かもしれない。私は想像を膨らませた。

蕨岱駅から黒松内駅へ

長万部町の果てにある蕨岱(わらびたい)という集落の形跡が見えない駅を過ぎて、列車は黒松内(くろまつない)に着いた。ホームには三人の乗客がいて、隣の道内二人組を含めた五人が下車。人口三千人超の町だが、付近に人の生活の気配を感じるだけで、とてつもなく大きな駅に思えた。

黒松内駅を過ぎて

黒松内を出ると、これまで日本海へ向かって進んでいた函館本線が、山に挑むことが宿命であるかのように突如左へ急カーブを切った。この先には八百、千メートル級の山々と急勾配の峠が待ち構えている。

倶知安駅から倶知安峠、小沢駅

倶知安を出ると、早速峠が待ち構える。SLの撮影名所だった倶知安峠である。蒸気機関車やディーゼル機関車が二機がかりで苦労した難所を、一両だけの新型ディーゼルカーは、それほどエンジン音を上げることもなく超えていく。

一二分走って小沢(こざわ)に到着。岩内線の分岐駅だったが、岩内方面へのレールは、その存在すらなかったかのようにはぎ取られ、崩れかけたホームにはロープが張られている。三角屋根の小さな駅舎は道内どこにでもある人家のようで、駅としての存在感がまるでない。かつて岩内行の急行「らいでん」や「ニセコ」の全列車が停まっていたとは思えない。山線の衰退を象徴するかのような駅である。

余市駅→蘭島駅→塩谷駅→小樽駅へ

余市は人口二万二〇〇〇人弱、沿線一の規模を誇る街で、積丹(しゃこたん)半島への入口でもある。小さなディーゼルカーの車内は、通路までびっしり人で埋まった。日曜日のためか観光客も目立つ。このキハ一五〇型という一九九三年製ディーゼルカーの最大定員は一一五名である。終点に近づいて、ようやく百人以上が乗ってきた。

海水浴場の最寄駅として、二〇年ほど前までは臨時の快速列車「らんしま号」が始発着していた蘭島を出た列車は、最後の勾配を上っていく。満員のためかこれまでよりは幾分重そうに感じるスピードである。

隧道(ずいどう)に入ったり出たりしながら、四つ目のトンネルを抜けると、日本海と雪を浴びた塩谷の集落が眼下に現れた。短い夏の間は華やかな海水浴場が、白い波に飲み込まれてしまっている。

函館本線(その3)・小樽→札幌→岩見沢→旭川間の風景

函館本線(その1)・函館→長万部間の風景

(出典:2009年「週末鉄道紀行」)