函館本線(その1)・函館→長万部間の風景

過去に自分の書いたことをすっかり忘れてしまうことがあります。備忘録的に北海道の鉄道旅の記憶と記録を残してみます。北海道の鉄道旅への惜別的な思いもあります。函館本線の1回目は函館駅→長万部駅間の風景です。

函館本線・函館駅発の長万部行・普通列車にて

青森は日本の袋小路だが、函館は大陸への出発点だ。稚内でこの国は途切れるが、その先にはサハリンがあり、短い海峡を越えればユーラシア大陸につながっている。稚内~サハリン航路がもっと便利だったなら、鉄道と船だけの壮大な旅を続けることも可能である。たった一両の寂しい気動車のなかであっても、そんな夢を抱けるのは、函館しかないと思う。

函館本線・仁山駅を過ぎたあたり

今日は雪が少ないためか、この古いディーゼルカーもそれほど苦しむことなく走っている。登りきったところで一瞬視界が開け、眼下に海まで続く真っ平な函館の街並みが広がった。函館山がオアフ島のダイヤモンドヘッドのようだった。

函館本線・砂原線(銚子口駅)

日曜朝とはいえ、車内も沿線もあまりに閑散としている。駅には人の気配が微塵も感じられない。近所に温泉があるという銚子口駅でも乗降はゼロ。駅前の家が倒壊していて、廃村のような雰囲気すら漂わせている。

列車は駒ヶ岳の裾野の高い場所を走っている。眼下になだらかな丘陵が拓け、その先には噴火湾も見える。初めて北海道に来た時、私は遠くに蒼い海が広がるこの区間の車窓に魅了され、熱烈な砂原線のファンになったのだが、今日の枯れた木々の丘と灰色がかった海は、ただ寒々しい。

函館本線・森駅を過ぎたあたり

列車は、山崖に押し出された細い街道を走っていく。右側には手が届きそうなほど近くに噴火湾の水面が迫ってきた。青とグレーが混ざり合った寒そうな海に、氷雪が落ちては吸い込まれていく。函館本線第二のハイライトが始まった。

右の窓には内浦の穏やかな海景色が続いている。人を寄せ付けない冬の日本海の激しさに比べると、迫力には欠けるが、海がじわりじわりと迫ってきて、いつの間にか懐に取り込まれてしまう風景である。

函館本線・八雲駅より先

鮭の遡上で知られる遊楽部(ゆうらっぷ)川を越えた列車は、再度海岸に向かって進んでいる。鷲ノ巣、山崎と、誰も乗らないけれど規則だから仕方がなく停まってますよ、というような駅を過ぎる。右の窓には再び内浦湾が現われ、今度は砂浜越しに眺める形になる。左手の競走馬を育む牧草地は、冬はただの白い地面だ。

夏なら、窓を開けて汐と草の香のする風を浴びたくなるが、今は海岸にまだら模様に積もった雪が一層寂しく、灰色の雲に飲み込まれてしまいそうで怖い。

黒岩の手前で内陸に入り、集落が少しは増えてきても、乗降はない。かつて瀬棚線が分岐していた国縫(くんぬい)でさえも、駅には誰一人として人間の姿はなかった。ディーゼルカーは珍客三人だけを乗せて、文句も言わず時刻表通りに走っている。

つづき「函館本線(その2)・長万部→小樽間(山線)の風景」


(出典:2009年「週末鉄道紀行」)