2015年、北海道新幹線の開業で犠牲となる江差線

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 再開3日目です。
 昨日、JR北海道が10月にダイヤ改正を行うという「公式発表」された話題について書きましたが、もう一つ、同時期に「非公式」として発表された内容がありました。
 江差線(函館・五稜郭~木古内~江差、約80km)のうち、木古内と江差の間(約42km)の廃止へ向けてJR北海道が動き出したというのです(江差線付近の路線図はこちら)。

 今月9日に新聞各紙で一斉に報じられている内容を総合すると、JR北海道は江差線の木古内~江差間を「2014年春にも廃止する方針を固めた」(北海道新聞)ことが7日に明らかになったとのことです。

 その理由についてJR北海道は「11年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均利用者数)が41人とJR北海道の中で最も低く、大幅な赤字で収支改善が期待できないため(北海道新聞)としており、沿線自治体である江差、上ノ国、木古内の3町と「これから協議を進めたい考え」(産経)があるようです。

 これに対し、沿線3町からは「収支が悪いという説明は受けているが、廃止は寝耳に水だ」(産経)という声が上がる一方、朝日新聞によると江差町の浜谷一治町長は「江差線の状況からすれば無理は言えず、わからないわけではない」と一定の理解を示したとされています。また、北海道新聞も8月10日の社説で「採算が見込める輸送密度8000人をはるかに下回っているだけに、いずれは廃止やむなしとの見方も地元にはあったようだ」と明かしています。
 「北海道内の路線で輸送密度が100人以下は同区間と札沼線(学園都市線)北海道医療大学~新十津川(89人)だけで、以前から廃止の可能性が指摘されてきた(朝日新聞)のも事実のようです。

 加えて、江差線を取り巻く近未来の変化を考えると、この区間が廃止されるのは、おおむね予想されていたことといえます。

 JR北海道のなかでトップともいわれる閑散区間であるうえに、2015年度に現在の東北新幹線が新青森から函館まで延伸(北海道新幹線)されることになっています。これにともない、並行在来線である江差線の五稜郭~木古内間は第三セクター化されることがこの5月に決定しています。
 そのため、木古内~江差間だけがJR北海道の路線として取り残されることになります。JRにとって超赤字区間だけを存続しても何らメリットはありません。

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 五稜郭と木古内の間は、北海道と本州を結ぶ貨物列車の運転ルートとなるだけに、廃線するわけにはいきませんし、沿線には人口4万人弱の旧上磯町(現北斗市)と同5000人の木古内町の大部分が含まれており、利用客はそれなりに見込めます。

 これ対して木古内と江差間は、沿線の大部分を占める上ノ国町の人口が6000人弱、終点の江差は支庁(「道」の出先機関で現在は振興局という名称)を置く檜山地方の中心地ですが、人口が減りに減ってついに9000人弱にまでなってしまっています。
 また、江差町内唯一の駅である江差駅は市街地から離れた住宅地で線路が途切れており(写真右上)、江差の人にとって鉄道がそれほど便利な存在ではないのかもしれません。港がある江差中心部から函館へは路線バスが1日6往復運転されており、所要時間も運賃もJRとほとんど変わりません。JRの利用者が少ないのは、そういう背景があるのでしょう。

 このように、廃止すべき要因が嫌というほどあるのは十分に理解できる、できるのですが、やはり、また北海道に鉄道空白地帯ができてしまうのは、とても悲しい。

 JR東日本だって、並行在来線の第三セクター化で取り残された大湊線を見捨てなかったじゃないか!
 しかも「リゾートあすなろ下北」なる観光列車まで走らせ、接続する第三セクター鉄道「青い森鉄道」で「青春18きっぷ」客に通過乗車させてまで、客を呼び込もうとしています。
 もちろん、陸海自衛隊の基地を擁した人口6万の「むつ市」(加えて人口4500の横浜町も)を抱える大湊線と比べると、江差線の木古内~江差間の沿線人口は4分の1もない。けれど、歴史的な江差の街には観光資源も多いですし、奥尻島(人口3500超)の玄関口でもある「観光地」なのです。

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 「しかし、それらが十分に生かされているとは言い難い。公共交通による移動手段が限られていることが一因とも考えられる。新幹線停車駅の木古内は、本州から訪れる観光客の檜山管内への玄関口になり得る。そうした情勢も踏まえて、渡島半島全体の振興につながる交通網整備を進めるべきだろう」(北海道新聞8月10日社説)

 新幹線駅となる木古内は、新たに江差や奥尻、城下町松前への観光拠点となりうるはずです。そう考えれば、北海道新幹線の開業を機に、ローカル鉄道にも発展的な動きをしてもいいじゃないか......。
 江差線や大湊線と同様に、国鉄時代に廃止対象を絞り込むための「全国赤字83線」に指定されていた日南線も枕崎線も、JR九州が懸命にテコ入れして観光客を呼び込んで存続させています。

 新幹線で都市間さえ結べば、あとの弱小路線は切り捨てるだけでいいのか?
 「新幹線開業=ローカル鉄道の衰退・廃止」ばかりが続いている現状を見るにつけ、何のため、誰のために新幹線を作ってるのか? 疑念ばかりが残ります。


※中ほどの写真は江差駅付近の様子。町はずれの住宅地で線路が途切れており、役所や港がある中心部へは徒歩15~20分ほどかかる。
※下の写真は北海道新幹線の駅が作られる予定の木古内駅。並行在来線の第三セクターには写真のようなJR(国鉄時代)の中古車両が格安で譲渡される予定