週末鉄道紀行への誘い(その1)~そして誰もいなかった

p100704.jpg

 5日ぶりです。
 Weblog(ブログ)に何かを書く、というと、ついつい怠惰な身辺雑記を書いてしまうことを31日間も続けてしまいましたが、今回からは「鉄道紀行舎」と称した屋号に負けないように、「鉄道紀行」をテーマとした内容を書いていきます。
 (時には身辺雑記も書いてしまうかもしれませんし、いつ完結するかも分かりませんが、頑張って連載していきます)

 統一のテーマは「週末鉄道紀行への誘い」という題名にしました。

 大半の方がそうだと思いますが、日常、仕事をしていると旅に出られるのは土曜日や日曜日といった週末しかありません。有給休暇やその他の休暇を使うにしても「週末+α」ということで旅に出ることが多いのではないでしょうか。会社員なる立場の人々にとって「週末=旅」だと思われます。
 私も「会社員」という立場で糊口をしのぐようになってから10数年、ほとんどが週末を使って旅をしてきました。昨年(2009年7月)書籍として刊行した『週末鉄道紀行』という本は、その集大成であるともいえます。

 

▽宮脇俊三から始まる「鉄道紀行」

 会社員である私が『週末鉄道紀行』という本を出したのは、多くの人間が「週末=旅」という状況にもかかわらず、そうした身に沿ってくれるような本が見付けられなかったことがありました。
 自分の心の置き場となりうる本に出会わない。だったら自分で書いて見ようという思いが書くきっかけです。

mi03.jpg 「鉄道紀行」の分野にはかつて宮脇俊三という第一人者がいて(その前にも内田百けんや阿川弘之氏はいたが鉄道紀行専業ではない)、この人は40年近くサラリーマン生活を送っていました。しかも大手出版社の編集職でしたから、おそらく平日は深夜以外はすべて仕事漬けだったと思われます。「当時は血の小便が出た」という状況だったようです。


 サラリーマンのそうした悲哀を身にしみていたせいか、この人の作品は面白く、私はとり付かれたように読みました
 特にデビュー作の『時刻表2万キロ』は現役会社員時代のことを書いていますし、『最長片道切符の旅』あたりは、長い会社員生活の残り香も漂わせています。根底にこうした作品があったからこそ、宮脇が「プロの書き手」となって後の作品もすんなり入って行けたのかなと思います。


 また、中央公論誌の編集長まで務めたほどですから、長年の編集者経験も相当に活かされていますし、文章を読む限り書き手としての苦悩や努力も存分に感じます。

 そして何よりも自身が「マニア」であることで、それが根底にあったから読んでいて愉しくも救われるような気持になったのでしょう。
 私が本などを書くようになったのも、特に宮脇の初期の作品を読んで影響されたからだったといえます。

 

▽宮脇亡き後の「鉄道紀行」

 ただ、宮脇俊三はもうこの世にはいない。
 過去の作品も全部読んでしまった。誰か面白い鉄道紀行を書いてくれ、ずっとそんな思いを抱いていたのですが、そうした望みはかなえられそうにもない。
 ノウハウ本は恐ろしいほどの量は出てくるけど、なぜか「鉄道紀行」は出てこない。出てこないばかりか、長年優良な「鉄道紀行」を掲載し続けてきた伝統あるJTB『旅』と鉄道ジャーナル社『旅と鉄道』までが廃刊されてしまう状況です。

 宮脇俊三以外の書き手による「鉄道紀行」もないわけではない。


 同時代の人で、に宮脇俊三と比較されることが多かったレイルウェイライターの種村直樹さんはご存命ですが、この人の本も幼少期から大概は読みました。もう新しい作品はほとんど出てこない。

 また、近年は関川夏央さんや酒井順子さんなど、プロの物書きによる「鉄道紀行」も出てきています。文章・構成が恐ろしく上手いので、読んでいて実に気持ちがいいのですが、この方々は「マニア」ではないので、この自分のもやもやした心の置き場にはなりえなかったのです。

 

 『秘境駅へ行こう』(牛山隆信さん)やマンガ『鉄子の旅』(横見浩彦さん、画:菊池直恵さん)は素直に楽しい。作者はお二人ともマニアだし。サラリーマンのかたわら人知れず「秘境駅」を訪れ続ける行為は敬服してしまう(あまりにもブームになりすぎて「秘境駅」が秘境ではなくなったのが残念......)。『鉄子の旅』では本の帯に「『鉄オタ』の時代がやってきた!」とあり、これ、本屋で本当に笑ってしまって「どんな時代やねん?」と。この感覚好きだなと思いました。「鉄ちゃん」みたいな甘ったるい愉快ならざる言葉じゃなくて、ずばり「鉄ヲタ」ですから......。「鉄ヲタ」って、どこか「マニア」と合い通ずるものがあって好きだなあ。中身も宮脇の『旅の終わりは個室寝台列車』や内田百けんの『阿房列車』の「2人旅」の系譜を継いでいる。
 ただ、これらは非常に面白かったけれど、自分の心の置き場になったかと言われれば、微妙に違う。

 

 鉄道紀行ではないですが、西村京太郎氏の鉄道を題材とした推理作品も幼少青年期にかなり読みました。
 ちなみにこの方は私の叔父です......
 というのを一時期「ネタ」にしていたのですが、本気で信じる方がいるので今は言いません。「西村健太郎」という名の「健太郎」は叔父の京太郎が付けたものである、ともっともらしく喋るとかなり信用されたのですが、これはまったくの嘘です。西村京太郎さんの本名は「矢島喜八郎」さんです。

 また話が飛びました。
 結論を言いますと、自分の心の置き場となり得るような書物が新たに出てこなかったから、『週末鉄道紀行』なる本を書いたわけです。
 この本は、自分から自分への手紙のようなもので、少々、私的な内容が多いのはそのためです。
 それでも思ったよりも反響があって、驚くやら照れくさいやら......。


次回「決別の鉄道旅」につづく)

※写真は2009年冬の青森駅で